無痛インプラント 〜その2〜
歯科治療が嫌われる理由は、はやり痛いからであろう。
人が感じる痛みの中で、歯髄由来の痛みはかなり上位に位置する。ひょっとすると日常生活の中で経験する痛みの中では、最も痛いと考えても良いのではないだろうか。そんな歯の痛みを治すのも歯科医の仕事であるが、それを治すために、更に痛みを与えなくてはいけないこともあるので、歯科医は嫌われる。

最近では、技術や機器、薬剤が進歩し、ずいぶんと人に優しい歯科治療が出来るようになったと思うが、なかなか、「歯医者は怖い!」というイメージは払拭できないのが現実であろう。

歯科恐怖症なる病名がある。歯科医院に来て、診療台に座るだけで心拍数は上がり、血圧が200ぐらいに上昇。そして、診療台の傍に歯科医師が来て、治療内容を話し始めたあたりで、意識が遠退き、治療台の背もたれを倒した時点で、意識が喪失してしまう患者さんもいる。このような方は、完全な歯科恐怖症であるが、そこまでひどくなくても、治療の途中に気分が悪くなる方はしばしば見受けられる。

その様な場合、治療は、吸入または静脈内鎮静下にて行う。吸入鎮静では、鼻にマスクを当てるため、歯科治療には邪魔になるので、多くは静脈内鎮静が選択される。全身麻酔を軽くかけるものとイメージしていただければ良い。全身麻酔と違い鎮静であれば、患者さんの意識はかすかに残る。こちらの呼びかけに反応するので、途中口を大きく開いていただいたり、咬んでもらったりしなくてはいけない治療の多い歯科では、鎮静が適切である。全身麻酔であれば、術前後の管理を含めると、日帰りしていただくことは難しい。

以前(5〜6年前)では、鎮静を行うと、患者さんが多弁になったり、いきなり起き上がろうとしたり、装置をはずそうとしたりとかなり、術者側にはストレスを強いるようなことであったので、鎮静はよほどのことがない限り行わなかった。しかし、最近は、専門医(麻酔科医)の技術の向上と薬剤の進歩から、術者側のストレスもなく手術できるようになった。

鎮静法のもう一つの利点は、術後の回復が良いということもある。病は気からというように、手術中の精神的ストレスが少ないと、術後の回復も良いようだ。おまけに、患者さん自身は術中の詳細を覚えていない。これを健忘効果というが、丁度、深酒した夜、記憶がないような状況になる。手術もあっという間に終わり、おまけに覚えていないとなれば、術後の回復も良くなるのであろう。

このような理由で、最近はインプラント治療にこの鎮静法を導入する先生が多いようである。どうやらこの鎮静下にてインプラントの手術を行うことを、一般の方々にもわかりやすく「無痛インプラント」と言っているようだ。蓋を開けてしまうとコロンブスの卵のようになってしまうが、ここ数年でインプラント治療の技術と製品がよくなってきて、インプラント治療が急増した理由を考えると、今後はこの鎮静法を併用したインプラント治療も増えてくる可能性は高い。

良いこと尽くめの鎮静法であるが、以下のようなディメリットもあるので、注意が必要である。

1 麻酔深度の調整は難しく、麻酔の専門医によって行われるべき方法である。
2 術者(手術をする人)とは別に、鎮静を行う専門の麻酔医が必要である。
3 インプラント手術における鎮静は、自費治療になる。
4 手術時間の延長(1.5倍ほど)
5 術前術後の制限(食事や車の運転など)
6 専用の機器備品が必要となる

適切な施術は、患者利益に大きく貢献することになるが、流行や安易な考えから、鎮静法を併用することは慎むべきことである。

鎮静法は麻酔深度を誤ったり、また、アクシデントに対応できない装備や知識、技術では、患者さんの生命を脅かす方法となることは間違えない。是非とも、熟練した麻酔専門医と仕事をしたいものである。

無痛インプラント
おかしなキャッチを、最近、目にする。

正常なインプラントであれば、痛むはずはない。むしろ、少々悪くなっていても痛まないので、タチが悪いことがある。
この「無痛インプラント」、手術のことを言っていると思うのだが、インプラントの手術は元々局所麻酔下にて行うので、痛みが無いのが当然だ。あったら、手術なんてできない。麻酔の痛みは別として、術中に痛みがあることはほとんどない。ほとんどというのは、あることもあるということだ。理由は下顎のインプラント手術中に痛みが出ることがある。これは、下顎には下顎管という神経(下歯槽神経)の入った管があり、その管にドリルが近づくと、痛みとして感じる。

歯科の局所麻酔には2種類ある。一つは、効かせたい部位に注射する浸潤麻酔であり、もう一つは、神経の大元に近いところに注射する伝達麻酔である。大きな手術を行うときには浸潤麻酔のみならず伝達麻酔も用いるが、通常、インプラント治療には伝達麻酔を用いない。理由は、誤って下顎管を損傷させないためだ。最近では、歯科用CTの普及により、下顎管の損傷の可能性は極めて少なくなってきている。しかし、レントゲンはあくまでもレントゲンであり、実像を完全に表しているわけではない。然るに、最終的には、レントゲン(CT)を参考に、術中の視覚感覚が決め手となる。自己を過信してもいけないが、レントゲンを過信しないことも事故を未然に防ぐポイントである。

浸潤麻酔のみであれば、ドリルが下顎管に近づくと、痛みが出る。これが、麻酔の奏功不足なのか、下顎管に近づいたのかの判断はCTを参考に行う。よって、下顎管の大元に伝達麻酔をしてしまい、下歯槽神経を麻酔してしまうことは、インプラント治療の原則から外れる。

さて、この「無痛インプラント」なるものは、この下顎管に近づいたときにも痛まないように伝達麻酔でもしているのか・・・どうやらそうではなさそうだ。では、麻酔の注射をするときに、表面麻酔剤を塗って、麻酔の注射の痛みをなくすことを表しているのか??いやいや、そんなありふれた処置で「無痛インプラント」などと吹聴しないだろう。さてさて・・・「無痛インプラント」とは・・・その正体は、次回のお楽しみと致しましょう(といっても、特別なことではありませんので、あまり期待せずにお待ち下さい ^_^;)。
インプラント手術のエマージェンシー
手術にアクシデントはつきものである。むしろアクシデントは起こるものと構えてかかる方が、万一の場合に慌てないものであると心得るようにしている。

インプラント治療におけるアクシデントには、患者さんの体に起こるものと、インプラント体に起こるものがある。どちらも起きてもらいたくないものであるが、起きてしまった時の対応術を心得ていると、2次災害を防止することができる。

先日、インプラントの中に折れたネジが入って取れなくなったという相談を受けた。インプラント治療が市民権を得て、治療症例が増えてくると、当然、それに伴うトラブルも増えてくる。なかでも、アバットメントスクリューやフィクスチャキャリアのスクリューが破断してしまい、インプラント内部に残留してしまったとのアクシデントは、緊急性もないので、後処置を依頼されることがしばしばある。

たった1本のネジが折れて、僅か数mmのネジの破片が内部に残ってしまったために、そのインプラントは使用できなくなる。場合によれば摘出も余儀なくされる。何としててでも、取り出したいものであるが、この摘出が難しい。

方法はいろいろあるが、基本的には、破断したネジが雌部に噛み込んでいることはほとんどなく、マイクロスコープ下にて注意深く、根気よく探針等で逆回転させれば上に上がってくる。プラークや血液などが介在し、回せないようなら、超音波スケーラーで振動を加えてながらまわすことを試みる。道具としては、フラグメントフォークなるものがあるが、探針で僅かに動く場合にしか利かないと考えてよいかもしれない。

どちらにせよ、インプラントを埋め込むことだけできたのでは、対応できない世の中になってきたのは確かなようだ・・・。

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